イオンエンジン (Ion engine) は、電気推進とよばれる方式を採用したロケットエンジンの一種で、マイクロ波を使って生成したプラズマ状イオンを静電場で加速・噴射することで推力を得る。イオン推進、イオンロケット、イオンスラスタなどともいう。最大推力は小さいが、比較的少ない燃料で長時間動作させられる特徴をもち、打ち上げられた後の人工衛星や宇宙探査機の軌道制御に用いられることが多い。
以前は実証試験として搭載される例が多かったが、近年では、従来のヒドラジン系推進器に替わる標準装備となりつつある。比推力が化学ロケットよりも格段に高いため、静止衛星の長寿命化に貢献している。
陽イオン源で推進剤を陽イオン化して電界の中に放出すると、正の電荷をもつ陽イオンは負電極にむかって加速運動を始める。このとき機体は陽イオンが得た運動量の総和と同じ大きさで逆向きの運動量を得る(すなわち、イオンの加速の反作用により機体が加速する)。イオン源の反対側にある負電極はグリッド状(グリッド電極)になっているため、加速された陽イオンのほとんどは負電極に衝突せず通過していく。その後通過した陽イオンは、再び負電極や機体に引き戻されないように、電子を放出する陰イオン源(中和器)により電気的に中性にした上で外部に放出される。陽・陰イオン源と電極は機体の各部位の電位を維持するために電気的に接続されている。
推進剤のイオン化手法や電極の構成には後述のように複数の方式があるが、陽イオンを加速することで推力を得ることがイオンエンジンの特徴である。つまり、キセノンガスにマイクロ波を当てることによって 電離し、キセノンイオンに電圧をかける(静電気を当てて加速させる)ことによって加速・放出し推力にしている。
なお、推進剤としてはキセノンを用いる場合が多い。他にリチウムやビスマスを用いる形式もある[1]。また、高度数百km以下の低軌道を周回する衛星においては、希薄に存在する大気を吸気して、これを推進剤として利用する事が構想されている。
静電荷電粒子推進器は推進剤としてアルゴン、キセノン、クリプトンなどのプラズマになりやすい元素を使用する。加熱されたフィラメントの陰極からの電子でガスをイオン化する。この方式は電子の損失が大きい。 加速したイオンビームをそのままにしておくと、宇宙機側がイオンと逆の電荷に帯電し、ビームが戻ってきて推進できなくなる。それを防ぐため、イオンビームを噴射した後逆電荷を噴出してビームを電気的中性のプラズマに中和する[2]。
ホール効果推進器 (ホールスラスタ) は荷電粒子を筒状の陽極とマイナスに帯電したプラズマとの間で加速する。推進剤の塊は陽極から注入されイオン化される。比較的高い比推力を持ち、比較的低い電力でも大きな (イオンエンジンに比べて) 推力密度を発揮する。ただし、特有の推力ノイズを持つ
[5]。
電界放射式電気推進 (FEEP:Field Emission Electric Propulsion) は液体の金属イオンを加速して推力を得る単純なシステムである。セシウムを短い隙間から流して加速環に導く。セシウムとインジウムが原子量が大きいので使用される。イオン化傾向が小さく、融点が低いからである[6][7]。
応答性がよく制御性に優れ、推力ノイズが少ないという利点を持つ。イオンエンジンと同様に中和器が必要となる。
セシウムを推進剤とする二次元スリット構造タイプと、インジウムを推進剤とする三次元プラグ構造のものがある。
また、FEEPと同様の構造で、(電離していない) 金属粒子を直接噴射するコロイドスラスタというものが存在する。
パルス誘導推進器 (PIT) はパルスを連続的に出す事で推進力を得るものである。メガワット級の出力を出す事が出来る。アンモニアガスが通常使用される。コイルから発生する磁場で荷電流子を集束させて噴射する。ローレンツ力を用いる [8]。
磁場プラズマ力学推進器 (MPD) プラズマ化したリチウムイオンをローレンツ力で加速する(LiLFA) [9] [10]。
比推力可変型プラズマ推進機 (VASIMR) DCアークジェットよりもはるかに高いプラズマ温度を達成することが可能である。電熱加速のシステムとも、電磁加速のシステムであるともいえる。
無電極プラズマ推進器(英語版)は2つの特徴がある。電極の消耗がないことと出力を加減できることである。電極が消耗する要因はイオンにさらされるからである。電極の寿命が事実上イオンエンジンの寿命と言っても過言ではない。中性のガスは電磁波によってイオン化され、別の電磁波によって加速される。イオン化と加速の分離は出力を加減することを可能にした[11]。
イオンロケットは化学ロケットの10倍以上の比推力を誇り、また非常に高い速度差が実現可能である反面、その加速に要する時間は非常に長い。これはイオンは軽量であり、推力密度が低いためである。また、イオンが高速でグリッド電極に衝突するため、長期間にわたる運用ではグリッド電極への侵蝕が問題になる。
イオンエンジンは推力密度が低いことや真空中でしか作動できないため、地球からの打ち上げに使うことはできない。その反面、少ない推進剤で長時間作動させる事により大きな速度変化を与えることが可能であるため、静止衛星の、軌道上の位置ずれ制御や、惑星間飛行、小惑星・彗星探査などの用途には最も適している。実際に使用された例として以下のようなものが挙げられる。
その他、1997年8月に打ち上げられたPAS-5以降、商用通信衛星でもイオンエンジンを装備する衛星が出てきており、HS-601HP(現在のBoeing-601HP)衛星バス、Boeing-702衛星バスでXIPS (xenon ion propulsion system) が使われている[15]。
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